九回忌「新入社員諸君!」
大いなる羨望と大いなる期待。
...
去年の秋、僕は満六十歳になった。還暦である。六十年間生きてきて、知り得た真理が一つだけある。
それは「此の世は積み重ねである」と言うことだ。煉瓦をひとつずつ積み重ねていって家を建てる。
この人生も、それと同じだということがわかった。
昭和二十年八月、僕は陸軍二等兵として軍隊で終戦を迎えた。
非国民と言われても仕方ないが、僕は嬉しくて仕方がなかった。
しかし、同時に大きなショックを受けた。それは戦争に負けたということではなかった。
僕は、どうやって死ぬかという教育ばかり受けていて、どうやって生きるかについては全く無智だった。
死ぬ事ではスペシャリストだったが、生きることでは赤ン坊同然だった。僕には生きるための土台がなかった。
それは「此の世は積み重ねである」と言うことだ。煉瓦をひとつずつ積み重ねていって家を建てる。
この人生も、それと同じだということがわかった。
昭和二十年八月、僕は陸軍二等兵として軍隊で終戦を迎えた。
非国民と言われても仕方ないが、僕は嬉しくて仕方がなかった。
しかし、同時に大きなショックを受けた。それは戦争に負けたということではなかった。
僕は、どうやって死ぬかという教育ばかり受けていて、どうやって生きるかについては全く無智だった。
死ぬ事ではスペシャリストだったが、生きることでは赤ン坊同然だった。僕には生きるための土台がなかった。
さて、新入社員諸君、会社員としての僕は、先輩や同僚から一発屋と言われるようになった。
感性と言えば聞こえはいいが、勘に頼って生きるしか手立てがなかった。土台がないんだから・・。
新入社員諸君!怖れることは何もない。地道な努力を積み重ねていれば、誰かが必ず認めてくれる。
積み重ねによって大きな家が立つ。きみは、きっと大成するよ。
会社員が定年退職する年齢になって、
やっとこんな単純な真理を体得したということは、僕の生涯の痛恨事である。
昭和六十二年四月一日、涙ながらに、もう一度申し上げる。新入社員諸君!
「此の世は積み重ねであるに過ぎない。」
この日、夜になったら、大いなる羨望と大いなる期待をこめて、
一人で静かにサントリーウイスキーを飲もうと思っている。(おめでとう、乾杯!)
三十一年前 昭和六十二年四月一日 朝日新聞 山口 瞳
感性と言えば聞こえはいいが、勘に頼って生きるしか手立てがなかった。土台がないんだから・・。
新入社員諸君!怖れることは何もない。地道な努力を積み重ねていれば、誰かが必ず認めてくれる。
積み重ねによって大きな家が立つ。きみは、きっと大成するよ。
会社員が定年退職する年齢になって、
やっとこんな単純な真理を体得したということは、僕の生涯の痛恨事である。
昭和六十二年四月一日、涙ながらに、もう一度申し上げる。新入社員諸君!
「此の世は積み重ねであるに過ぎない。」
この日、夜になったら、大いなる羨望と大いなる期待をこめて、
一人で静かにサントリーウイスキーを飲もうと思っている。(おめでとう、乾杯!)
三十一年前 昭和六十二年四月一日 朝日新聞 山口 瞳
http://www.abn-tv.co.jp/archives/column/naisyo/109.html
https://news.yahoo.co.jp/byline/usuihiroyoshi/20140403-00034184/
https://news.yahoo.co.jp/byline/usuihiroyoshi/20140403-00034184/
あっと言う間に散った今年の桜 暖かくなると珍車も這い出る。
約半世紀、私が見て感じて撮影した「モノ」の写真を載せております。スマホ版が見辛い場合は画面下「PC版を見る」を選択してご覧下さい。著作権放棄はしておらず、無断転載はご遠慮願います。
この新聞をよく取って置きましたね。
亡き友のこと、再出発のこと、gopさんの想いが込められた記事ですね。
でも今年の桜はずいぶんと堪能できましたよ。
by kanican (2018-04-01 22:00)
> kanicanさん
あれから八年、あの日も桜が満開でしたね。
昨日はしゅうさんに頂いた京都の珍しいお酒を頂きました。
さて三十一年後、我々はどうなっているでしょう?
by gop (2018-04-02 07:01)
人生は積み重ね。私の場合は積み重なっているか?いまは疑問ですが これが解るようになるにはまだまだ年月と修行が必要なのでしょう。お酒のほうは お口に合いましたでしょうか?
by しゅう (2018-04-02 12:47)
> しゅうさん
木津川伏流水で仕込んだ貴重なお酒、有り難うございます。
コクのある辛口で、旬の筍を肴に頂きました。美味しかったです。
人生の方は・・なかなか思う様には積み上がりませんね。
先も見えて来たので極力崩さない様、無理せず重ねて行ければと。
by gop (2018-04-02 18:57)
毎年の、成人と新社員と、その文章は読むのが好きでした。
月日のたつのは本当に早いです。
by ナツパパ (2018-04-03 09:51)
> ナツパパさん
山口さんの相棒、ドスト氏の個展も始まりました、御歳九十九。
https://www.tamashin.or.jp/pdf/top_info_4.pdf
by gop (2018-04-03 12:02)
今年の桜は、一気に咲いたので見頃の期間がとても短かったように感じます。
人生は積み重ね…
そうですね。いろいろな経験を経て頭の中の引き出しが増えていき、遭遇する難敵に対処できるようになる…
そう思えた時には、もう自分自身が老いぼれ初めています。
晩年になった人生、もう少し頑張りたいと思っています。
by のり (2018-04-03 23:29)
> のりさん
三十年前の晩年と今の晩年では随分状況が違いますからね。
定年も六十五〜七十が普通になりそうですし。
無駄な引き出し(積み重ね)は捨てて身軽になるのもありかも。
もっと楽しみましょう。
by gop (2018-04-04 05:28)
山口瞳先生は、あっしが昔画家だったころ、あっしの個展にきてくださり ずいぶんながいことお話をしてくださり「男性自身」にあっしのことを書いてくださいやした。
お話をしていて、とても冷静で理論的なかただなぁと思いやした。
by ぼんぼちぼちぼち (2018-04-09 15:44)
> ボチボチさん
あっしはTV版「居酒屋兆治」を改めて見てみたいでやす。
専門チャンネルでやって欲しいでやす。
by gop (2018-04-11 18:33)