橋本屋
- 写真 カメラ
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陀羅尼助(参道にて)
ぼく自身は、蝉時雨の降るような青葉の室生寺が一番好きである
本当に室生寺くらい山気がジーンと肌に迫るところは無い
そして、小鳥の高く澄んだ啼き声が、その静けさを一層ジーンと深いものにさせる
村に旅館が二軒ある 門前の太鼓橋をはさんで、旅館と茶店のあるのが橋本屋である
橋本屋は、半商半農である、旅館も茶店もおばさんのアルバイトである
娘の三千代さんが手伝っている
三千代さんはなかなかの美人で、親切で明るい性格である
ぼくたちは、十年来、撮影に行くたびに、三千代さんの接待をうけてきた
今度行ってみると、三千代さんは大阪へ縁づいて、もういなかった
戦争で結婚が遅れていたのだから、まずは目出たい次第である
門前の美しい眺めのひとつであった橋本屋の合掌造りの茅葺き屋根もなくなって、
総二階瓦葺きの旅館らしい構えに変わっていた
おばさんは、いよいよ元気で、三千代さんにかわって愛嬌を振りまいていた
土門拳 「死ぬことと 生きること」より
右側が 橋本屋旅館、土門氏が泊まった橋本屋旅館「石楠花の間」
土門拳作品展「室生寺」
財団法人 土門拳記念館