someone
- お食事
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父は自宅の庭について書く事が多かった
四季の移ろいを新緑や紅葉に感じていて、それを事あるごとに書く物だから
ずいぶん広い庭の様に思われていた方が多かった
しかし、実際はわずか幅が五間の奥行き三間で、ひいき目に計っても
十五坪と言うところだろう
あるとき、連載していた「男性自身」で性懲りも無く庭の事にふれ、
そこに茶室を造る事が夢だと書いた
もとより猫の額程の庭である、出来る筈も無い相談だった
しかも、父はその茶室の名前は「寒庵」である、とまで書いた
英語の "someone" である
コピーライターでもあった父はよくこの手の洒落たネーミングをした
父が茶室の事を書いてからしばらくして「押田」の押田さんが我家にやって来た
実は店内に茶室仕立ての座敷を造る事になったのだが、ついてはお願いがあるとの事だった
その座敷を「寒庵」と名付けたいのだがいかがでしょうか、と言うのだ
父は即座に快諾した
徒歩数分といえば庭の続きと言ってもいい
ちょいと庭先のはずれに離れがあり、それが茶室になっている、と言う塩梅だ
父の書と関頑亭先生の仏画が床の間に飾られた六畳間
我家の離れとして、現在も来客の接待などに利用させて頂いている
山口正助「山口瞳の行きつけの店」より
個人的に 関東風はダメ 関西(名古屋)風が好みです、ご免なさい
山口瞳「行きつけの店」
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