三十年ぶり復刊
- 日本車
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「八年目の全塗装」
愛車も今年で八年目、流石にボディのあちこちに小さなエクボが目立つ様になって来ました
少しくらいならそれも可愛いのですが、今年の三月奥多摩のコーナーで急に言う事を聞かなくなり結果電柱と喧嘩、軽い打撲傷をおってしまい、この際だからと全塗装する気になったのです
そうなると、何処で塗り替えるかと言う問題になる訳ですが、未だ当分セカンドカーとしての役目を負わねばならぬ117なので、ヘタクソなディーラーや(二回出して懲りている)そこらの街の塗装屋に任すには忍びない、そうなると「あそこ」しか無い!と、以前から全塗装するなら...と考えていた、東京は千代田区麹町にある「わたびき自動車」に電話してみる事にしました
「わたびき自動車」について若干解説しますと、東京都千代田区麹町(国会議事堂のすぐ近く)で戦前から営業している自動車専門の塗装工場で、昔はアメ車中心、最近はロールス、ベントレー、メルセデスと言った高級外車を中心にリペイントを行っており、宣伝など一切行っていないためご存知ない方も多いと思われますが、各方面から聞き及ぶにその内容には定評があるそうです
私が「わたびき自動車」を知ったのは二年程前、何気なく買った中沖満著「力道山のロールスロイス くるま職人 思い出の記」と言う本を読んだのが最初、著者の中沖満氏は長く「わたびき自動車」に勤めて来られた塗装職人で(昨年十二月で定年退職、現在は自動車バイク雑誌に記事を連載中)その方の自叙伝の様な内容なのですが、その本の文中に「スバル360でも決して手を抜くな、お客様にとって自分のスバル360はロールスと同じなのだから、と言うのが社長の口癖である...」と言うくだりがあり、これを読んでから全塗装する時はこの工場で、と想い続けて来たのです
と言う事で、早速先方に電話し内容を伝えると、取りあえず本社の方へ車をお持ち下さいとの返事、なので四月の土曜休み、都内に住む友人と二人で麹町本社に行ってみました
場所は麹町のオフィス街、それ程大きく無い工場なのですが、置いてある車はロールスのカマルグ、アルピナB9、マセラティ クァトロポルテ、フェラーリ308GTB、マラリュー(ベントレー改造車)と言った外国製高級車ばかり、やはり117など場違いだったのではないかと思われる雰囲気の中(現実問題として、お値段のこともあり)取り合えず話を聞いてみる事に
左:Bentley Type R Saloon (1953) 右:Rolls-Royce Silver Cloud III (1962)
五月の終わり、ドアミラーの位置決めにわたびきに行って来ました
愛車はガラスやパーツ類を全て外されサフェーサーを吹いた状態で、小さな凹みやサイドラインの仕上がりは私が見た限りでは完璧(最初117のラインは難しく、完全には出ないと脅されていた)さらにこれから奇麗に出し直します、との事でした
書き忘れましたが、わたびきではボディカラーを変更する場合、エンジンルーム内の塗装も行い、これには私も驚いたのですが、エンジンは降ろさず補機類のみ外し(ハーネスは上から吊るす)後はマスキングしてガン塗装、ガンが入らない所のみ手塗りで処理するそうです
一ヶ月が過ぎ、待ちに待った6月16日の土曜日、梅雨に入ったとは思えない上天気恋人に会う様な気分で(注:大笑)戸田工場へ引き取りに行きました
愛車は工場の奥でフェラーリとポルシェに挟まれ置かれていましたが、私にはそのどちらより117が素晴らしく見えました、もう声も出ない程感激(サイドラインも完璧)何も知らない人にオリジナルペイントの新車と言っても十分通用したでしょう
ただ一つ残念?だったのは、何だか生活感の無い車になってしまったな、と感じた事くらい一年二年と使い込めばそれなりに生活感も出てくるのでしょうが、車は不自然にピカピカより適度に使い込まれ汚れていた方が私にとっては相性が良いみたいです
で、皆さん一番興味があるであろう費用ですが、最終的に¥587,460-(交換パーツ等含)高い安いは各自判断にお任せしますが、専務さんが「始めはお客さんから塗装だけで何故こんなに高いんだと言われるが、仕事を見て貰えば大体判って頂けます、うちはあまり儲かってないんですよ」と笑って仰っていましたが、私もわたびきの作業を拝見し、決して高くは無いと感じましたし、長く車を乗るつもりでいるなら、むしろバーゲンと言って良いと感じた次第です
以上クラブ員で全塗装を考えている方が居たら参考になればと思いペンを取りました
(二十八年前 gop記述、ほぼ原文ママ)
今は無き某クラブ 昭和59(1984)年7月12日発行 会報より抜粋
「八年目の全塗装」
愛車も今年で八年目、流石にボディのあちこちに小さなエクボが目立つ様になって来ました
少しくらいならそれも可愛いのですが、今年の三月奥多摩のコーナーで急に言う事を聞かなくなり結果電柱と喧嘩、軽い打撲傷をおってしまい、この際だからと全塗装する気になったのです
そうなると、何処で塗り替えるかと言う問題になる訳ですが、未だ当分セカンドカーとしての役目を負わねばならぬ117なので、ヘタクソなディーラーや(二回出して懲りている)そこらの街の塗装屋に任すには忍びない、そうなると「あそこ」しか無い!と、以前から全塗装するなら...と考えていた、東京は千代田区麹町にある「わたびき自動車」に電話してみる事にしました
「わたびき自動車」について若干解説しますと、東京都千代田区麹町(国会議事堂のすぐ近く)で戦前から営業している自動車専門の塗装工場で、昔はアメ車中心、最近はロールス、ベントレー、メルセデスと言った高級外車を中心にリペイントを行っており、宣伝など一切行っていないためご存知ない方も多いと思われますが、各方面から聞き及ぶにその内容には定評があるそうです
私が「わたびき自動車」を知ったのは二年程前、何気なく買った中沖満著「力道山のロールスロイス くるま職人 思い出の記」と言う本を読んだのが最初、著者の中沖満氏は長く「わたびき自動車」に勤めて来られた塗装職人で(昨年十二月で定年退職、現在は自動車バイク雑誌に記事を連載中)その方の自叙伝の様な内容なのですが、その本の文中に「スバル360でも決して手を抜くな、お客様にとって自分のスバル360はロールスと同じなのだから、と言うのが社長の口癖である...」と言うくだりがあり、これを読んでから全塗装する時はこの工場で、と想い続けて来たのです
と言う事で、早速先方に電話し内容を伝えると、取りあえず本社の方へ車をお持ち下さいとの返事、なので四月の土曜休み、都内に住む友人と二人で麹町本社に行ってみました
場所は麹町のオフィス街、それ程大きく無い工場なのですが、置いてある車はロールスのカマルグ、アルピナB9、マセラティ クァトロポルテ、フェラーリ308GTB、マラリュー(ベントレー改造車)と言った外国製高級車ばかり、やはり117など場違いだったのではないかと思われる雰囲気の中(現実問題として、お値段のこともあり)取り合えず話を聞いてみる事に
左:Bentley Type R Saloon (1953) 右:Rolls-Royce Silver Cloud III (1962)
丁度専務さんがおられ、愛車を見せると開口一番「まだ奇麗じゃない、なんで塗り替えたりするの」「(こういう訳で)未だ当分乗りたいので、ここらで塗り替えようと思ってるんです」と言うと「うちで塗り替えるなら最低六年は乗らないと元は取れないです、しかしそれだけ最善を尽くして仕事させて貰ってます、うちは儲けさせてもらえるんだから嬉しいけど、良く考えてみて下さい」この自信...こうなると私も後には引けず、「是非お願いします」と答えてしまったのでした
聞くと四月中は一杯だそうで、5月12日に戸田の新工場に入庫、約一ヶ月後に完成と言う事で予約、問題の見積もりは五十五万円( 内訳は塗装代三十五万、パーツ脱着取付費十万、もちろんガラスやモール、パッキン類全て取り外し、残り十万が板金代)
ボディカラーは元のパルテノンアイボリー(ベージュ)から思い切ってホワイトに変更「どうせならロールスの白にしたらどう」と言われましたが、結局純正のマグノリアホワイトに、ついでにフェンダーミラーは取り外して穴埋め、BMW(2002用)純正メッキドアミラーに交換、同じくリアフェンダーのリフレクター、エンブレムの穴も全て埋める事にしました
そしてゴールデンウィークも終わった5月12日、戸田工場の見学を兼ねて愛車を持ち込みました
戸田工場は完成したばかりで非常に広大で(五百坪あるそう)これだけあれば複数台の塗装作業もスムーズに行えると思われます(注:麹町本社は環境問題で塗装作業が難しくなって来ていた)
聞くと四月中は一杯だそうで、5月12日に戸田の新工場に入庫、約一ヶ月後に完成と言う事で予約、問題の見積もりは五十五万円( 内訳は塗装代三十五万、パーツ脱着取付費十万、もちろんガラスやモール、パッキン類全て取り外し、残り十万が板金代)
ボディカラーは元のパルテノンアイボリー(ベージュ)から思い切ってホワイトに変更「どうせならロールスの白にしたらどう」と言われましたが、結局純正のマグノリアホワイトに、ついでにフェンダーミラーは取り外して穴埋め、BMW(2002用)純正メッキドアミラーに交換、同じくリアフェンダーのリフレクター、エンブレムの穴も全て埋める事にしました
そしてゴールデンウィークも終わった5月12日、戸田工場の見学を兼ねて愛車を持ち込みました
戸田工場は完成したばかりで非常に広大で(五百坪あるそう)これだけあれば複数台の塗装作業もスムーズに行えると思われます(注:麹町本社は環境問題で塗装作業が難しくなって来ていた)
工場長さんに構内を案内して頂くと、入庫しているのはロールス、ベントレー、マセラーティ、フェラーリ、アストン、ポルシェと言った、車好きには嬉し涙が出そうな車が殆ど
唯一の国産車は名古屋ナンバーのGC10GT-R、二年前わたびきで全塗装、下回りに錆が出たので遠路名古屋から補修に持って来た由、グリルにはGT-R OWNER'S CLUB CHUBU のエンブレム
このオーナーもお好きなのでしょう(注:このクラブも今は無い様)
唯一の国産車は名古屋ナンバーのGC10GT-R、二年前わたびきで全塗装、下回りに錆が出たので遠路名古屋から補修に持って来た由、グリルにはGT-R OWNER'S CLUB CHUBU のエンブレム
このオーナーもお好きなのでしょう(注:このクラブも今は無い様)
そんな中、魅力的だったのが65年位のアルファTZ、オーナーが海外から持ち込んだばかり
オバフェン付のレース仕様を一枚の写真を頼りに(サイドビューの写真)元に戻している最中 ほぼ完全レストアで「時間とお金は幾ら掛かるか判らない」と工場長さんは笑って仰ってました
このアルファのボディはオールアルミなのですが、わたびきにもアルミ用の新しい溶接機が入り今では鉄板と変わりなく溶接が出来るそうです
このアルファのボディはオールアルミなのですが、わたびきにもアルミ用の新しい溶接機が入り今では鉄板と変わりなく溶接が出来るそうです
911. DBS.TZ
驚いたのは一見新車のロールス シルバーシャドゥなのですが、これがリアからオカマを掘られてフロントドアまでグシャグシャになったものを再生したとの事で、掛かった費用は八百万!工場長さんも「うちでも良く直ったもんだ」と仰ってましたが、シャーシから牽引して直した由 新車と言われても全く判らない程、素晴らしい仕上がり
その横には黄色のディーノ246、磨き直しで入場しているとの事でしたが、その美しいボディは魅力に溢れ、直ぐには立ち去れない気分になったものです(注:当時246は珍しかった)
工場長さんの話では塗装は乾燥が一番大事で、下地、サフェーサー、下塗り、本塗り、どの行程も完全乾燥させてから次の塗装を吹かないと、後でブリスターやクラックが出て来るそうで、わたびきでは
一台一台作業工程表に乾燥時間を書き入れる項目があるのですが、それを聞いて納得した次第 塗料に関しては、昔はデュポン製が最高とされていましたが、今では国産の塗料も品質が良くなり通常では国産塗料を使用しているとの事(注:中沖氏の本にはデュポンが出てくる)
そんなこんなで車を置いて帰ったのですが、一ヶ月も車が無いと寂しいもので夢にまで見ました(笑)その間、私のファーストカーであるワインレッドメタリックのプジョーは何時になくフル活用され、か細いミシュランは二度もパンクし、仏車のだらし無さを曝け出したのでした
その横には黄色のディーノ246、磨き直しで入場しているとの事でしたが、その美しいボディは魅力に溢れ、直ぐには立ち去れない気分になったものです(注:当時246は珍しかった)
工場長さんの話では塗装は乾燥が一番大事で、下地、サフェーサー、下塗り、本塗り、どの行程も完全乾燥させてから次の塗装を吹かないと、後でブリスターやクラックが出て来るそうで、わたびきでは
一台一台作業工程表に乾燥時間を書き入れる項目があるのですが、それを聞いて納得した次第 塗料に関しては、昔はデュポン製が最高とされていましたが、今では国産の塗料も品質が良くなり通常では国産塗料を使用しているとの事(注:中沖氏の本にはデュポンが出てくる)
そんなこんなで車を置いて帰ったのですが、一ヶ月も車が無いと寂しいもので夢にまで見ました(笑)その間、私のファーストカーであるワインレッドメタリックのプジョーは何時になくフル活用され、か細いミシュランは二度もパンクし、仏車のだらし無さを曝け出したのでした
五月の終わり、ドアミラーの位置決めにわたびきに行って来ました
愛車はガラスやパーツ類を全て外されサフェーサーを吹いた状態で、小さな凹みやサイドラインの仕上がりは私が見た限りでは完璧(最初117のラインは難しく、完全には出ないと脅されていた)さらにこれから奇麗に出し直します、との事でした
書き忘れましたが、わたびきではボディカラーを変更する場合、エンジンルーム内の塗装も行い、これには私も驚いたのですが、エンジンは降ろさず補機類のみ外し(ハーネスは上から吊るす)後はマスキングしてガン塗装、ガンが入らない所のみ手塗りで処理するそうです
一ヶ月が過ぎ、待ちに待った6月16日の土曜日、梅雨に入ったとは思えない上天気恋人に会う様な気分で(注:大笑)戸田工場へ引き取りに行きました
愛車は工場の奥でフェラーリとポルシェに挟まれ置かれていましたが、私にはそのどちらより117が素晴らしく見えました、もう声も出ない程感激(サイドラインも完璧)何も知らない人にオリジナルペイントの新車と言っても十分通用したでしょう
ただ一つ残念?だったのは、何だか生活感の無い車になってしまったな、と感じた事くらい一年二年と使い込めばそれなりに生活感も出てくるのでしょうが、車は不自然にピカピカより適度に使い込まれ汚れていた方が私にとっては相性が良いみたいです
で、皆さん一番興味があるであろう費用ですが、最終的に¥587,460-(交換パーツ等含)高い安いは各自判断にお任せしますが、専務さんが「始めはお客さんから塗装だけで何故こんなに高いんだと言われるが、仕事を見て貰えば大体判って頂けます、うちはあまり儲かってないんですよ」と笑って仰っていましたが、私もわたびきの作業を拝見し、決して高くは無いと感じましたし、長く車を乗るつもりでいるなら、むしろバーゲンと言って良いと感じた次第です
以上クラブ員で全塗装を考えている方が居たら参考になればと思いペンを取りました
(二十八年前 gop記述、ほぼ原文ママ)
山の家至近にて
ずっとずっと愛してる「力道山のロールスロイス」
http://1565.blog.so-net.ne.jp/2006-02-17中沖満 - Wikipedia